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人生万事塞翁が馬

終わらない「PandoraHearts」


 作者の望月淳さんのブログ(http://3choume.blog78.fc2.com/)を読むと、まだ続くようです、パンドラハーツ。
 少なくとも、次号にも確実に載る。

 春に出た22巻の巻末の、「次巻 最終巻」の告知に、パンドラファンみんなが衝撃を受け。単行本一冊に入るであろう話数を逆算し。
 八月か九月には終わってしまう……!! と涙したのも今は昔。

 いや、終わってる予定だったらしいんですが、本当は。
 
 もちろん、嬉しいんですが。大好きな作品なので、はしょったりせず、お話をちゃんと完結させてほしいし!
 少しでも長く続いて欲しい!!

 ということで、もう二冊くらい単行本出しちゃいましょうよ、スクエアエニックスさん。
 金欠だけど、パンドラだけは買いますから!!(^o^)
 

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遠い海鳴り⑧(最終回)


「王様?」
 少女が小首をかしげる。彼は頷いた。
「ああ。そいつはな、海が見たいと思った」
「海?」

「そうだ。ほら、ここには海がない」
 彼は地図を指した。
「だからそいつは、軍勢を率いて南に行った。そこで海は見たけれど、まだまだそんなものじゃ満足できなかった。そいつは、もっと大きな海が見たかったんだ」
「もっと、大きな海」
 アリシアは言葉をかみしめるように繰り返した。

 それを横目で見ながら、ウェイバーの心は過去へと舞い戻る。
 たった二週間、彼の傍にあった堂々とした面影。

「そう。だから、そいつは先へ先へと進んだ。たくさんの国を征服した。その全てを後ろに置いて、先へ進み続けた。大勢の人間が彼に従った。国を征服するたびに、敵だった奴らがそいつの後について来たがって、軍勢はどんどん大きくなった」
「どうして、みんなそんなに海が見たかったの?」
 少女が真面目くさった口調でたずねた。

 ウェイバーは、微笑んだ。少女が見たこともないような、優しい笑顔だった。
「違う。海が見たかったのは、きっとそいつ一人きりだった。そいつについて行きたがったヤツらはさ……海を見たがってる、そいつをずっと見ていたかったんだ、きっと」

「王様を?」
 アリシアはまた、小首をかしげる。ウェイバーは、またうなずく。
 少女は、もう一度たずねた。
「それで、王様は海を見ることができたの?」

 ウェイバーは首を横に振った。
「この海は見た」
 インド洋を指す。
「でも、まだ満足できなかった。もっと先へ行きたかった。もっと先に、もっと大きな海があるって聞いたから。だけど、たどり着けずに死んだ」
 アリシアは、驚いたように黙り込む。ウェイバーは、それにもう一度優しい微笑みを向けた。
「けどな、アリシア。そいつはそれで幸せだったんだ。そいつは、海が見たいって自分の運命をどこまでも追いかけて行った。満足して死んだんだ」

「満足……」
 少女はその言葉をかみしめるようにつぶやく。ウェイバーはうなずく。
「ああ。でも、二度目の生があるなら、今度こそ世界中を征服し尽くしたい、って言ってたけどな」
 少女の目が驚いたように見開かれる。

「先生、まるで会ったことあるみたい」
「あるさ。一緒に暮らして、一緒に戦った」
「だって、ずっと昔の人でしょう?」

 少女の目が、古地図へ向かい、またウェイバーの顔に戻ってくる。
「それとも、先生はその頃からずっと生きてるの? 魔法使いだから、そんなことが出来るの?」
 ウェイバーは苦笑した。
「いや、ボクは魔法使いじゃなく魔術師で、魔術師はそんなに長い時を生きられない。だけどな、本当に会ったんだ。これは、お前とボクだけの秘密だぞ?」
 アリシアはますます目を丸くする。
「本当? 先生、すごい」
「ああ。先生はすごいんだぞ」
ウェイバーは得意になって胸を張った。
 それから、真面目な顔に戻って少女の顔を見た。

「アリシア。だからお前も、何をやったっていいんだぞ」
「え」
 少女は。驚いて、彼を見返す。
 それへ、ウェイバーは優しく言った。
「お前はずっと罪を背負って生きなくちゃいけない。それは変わらないけど、それとは別に、お前はお前の運命を追って行っていいんだ。お前は、生きてるんだから」

 少女の目が、また大きく見開かれる。だが、今度の表情は少し硬い。
「あいつが海を追っていったように。海を追い続けたあいつを、ボクが追い続けているように。お前にもきっと、追い続けたいものが見つかる。それを追い続けるために、これからお前はいろんなことを勉強するんだ」

「私の……追い続けたいもの……?」
 少女は低くつぶやく。
 その顔は、少し歪んで。まるで、泣きだそうとしているように。決して手に入らないものを見せつけられているように。

「そうだ。信じろ。きっと見つかる」
 ウェイバーは彼女の手を握る。
 目をそらそうとするのを許さずに、まっすぐに見つめ続けて、精一杯の言葉をぶつけた。
「必ずだ。お前の海は、必ず見つかる」

 その真剣な瞳に。
 少女は、ただ泣いた。

 いつか手に届くかも知れないもの。
 今はあまりにも遠く思えるものを思って。
 ただ、手を握ってくれる人の、瞳の熱さだけを信じて。

 彼女には、まだ何も見えない。
 真っ暗な場所にいる。
 ただ、遠い海鳴りの音だけが。
 彼女の耳に響いていた。

                                 =了=

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遠い海鳴り⑦


「そうだ。今夜はボクの部屋で眠るか?」
 ふと思いついて、そう言った。

 もう、大人と一緒に眠る年でもないだろうと思っていたのだが。
 少女はパッと顔を輝かせ、
「先生の部屋で? いいの?」
 とたずねた。

「ああ。君がかまわないなら」
 その反応にちょっと驚きながら、彼はそう答えた。
「行きたい」
 少女は、ギュッと彼のナイトガウンの袖を握り締めた。
「一人で寝ると、イヤな夢をみるの。だから、一人で寝たくない」
 
 それを聞いて、ウェイバーは初めて少女の孤独に思い当たった。
 彼女は、たった一人生まれた家から引き離されて、言葉も通じないこの国に連れて来られた。
 彼女にとって、自分は人さらいにも等しい相手だろう。
 だが、彼女には今はもう。そんな自分の他に、すがれる相手がいないのだ。

「そうか」
 ただ、うなずいて。細い小さな体を、抱きしめた。
 彼には、この孤独な少女に他にしてやれることが何もなかった。

                               *

 本でいっぱいの寝室を見て、少女は目を丸くした。
「先生。ベッドの上まで、本があるよ?」
「ちょっと待て。今、どかすから」
 端の方に山ほど積んであった本をどかして、少女が横になれるスペースを作る。
「ほら。これでいいだろう」
 と声をかけると、少女は黙ったまま毛布の中にもぐりこんだ。

 彼女が心地よく横になれていることを確認して、自分は隅のソファーに移る。
 二人で眠れるほど広い寝台は持っていない。

「先生。これ、何?」
 壁を指して少女が声を上げた。
 ウェイバーは少しだけ振り返って、少女が指しているものを見る。
「ああ。古い地図だ。紀元前のものを手に入れた。まあ、複写だけどな」
 オリジナルは高価すぎて、時計塔の助講師風情の収入で手が届くものではない。

「先生。日本は、どこ?」
「載ってない。この地図を描いた人間は、まだ君の母国の存在など知らなかったんだ。それどころか、見たまえ。このブリテン島さえ、地図には載っていない」
 少女はまじまじと地図を眺めた。
 その中で、ヨーロッパの西半分は地中海沿岸のわずかな地域を除いて、全くの白紙になっている。
「ホントだ」
 感心したように、少女は呟いた。

「人の把握しうる世界は時代によって変わる。今、君が知っている世界が全てではない」
 そう言って彼は、ソファーに身を横たえた。少女はまだ、地図を眺めている。
「先生は、それを忘れないためにこれをここに貼ってるの?」
 素朴な質問。
 だが、それが彼に、忘れえぬ郷愁を思い起こさせた。

 彼はもう一度身を起こし、寝台に向かう。少女の傍に立って地図の一点を指差す。
「これ。どこだか、分かるか」
 少女は地図に書かれた文字をじっと眺め、すぐに首を横に振った。
ようやく話し言葉をなんとか覚えた程度の彼女には、古書体の文字はまだ難しすぎたらしい。
「ここはな、マケドニアっていうんだ。ギリシャの北の方。昔、ここに一人の王がいた」

                           =続く=

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